離職を防ぐオンボーディング施策とは?
新卒社員や中途採用の社員の早期退職を防ぐための有効な策として、今注目を集めているのがオンボーディング施策です。
社員を採用しても、業務内容や社風に馴染めなければ、早期退職を招き、人材不足に陥ってしまいます。新卒入社に限ると3年で離職率の平均は約3割となっており、定着率を向上させるための取り組みは企業にとって必要不可欠です。オンボーディング施策は早期退職を防ぐための効果的な方法として知られており、多くの企業が導入し始めています。
オンボーディングとは
オンボーディングは、新しく組織に入った人材に対して行う教育プログラムです。業務に関する知識や仕事の進め方、企業文化やルールなどをできるだけ早く理解し、組織に馴染んでもらうために行います。
オンボーディングは英語で「船・飛行機に乗る」という意味のonboardingから来ており、新しく組織という船に乗った人材が、早く活躍できるようにするという意味が込められています。
早く企業風土に慣れさせるプロセス
近年、多くの企業で新しく採用した社員が入社して1年以内で離職してしまうケースは後を絶たちません。離職の理由はそれぞれですが、よくある理由として「会社に馴染めなかった」「自分と合わなかった」「想像していた会社の雰囲気と違った」というようなものが挙げられます。入社してわずかの期間で退職する場合、業務内容よりも会社の雰囲気や人間関係でミスマッチを感じてしまうことが多いです。
新しく採用した人材に早く会社の雰囲気や人間関係に慣れてもらい、活躍できる環境を整えるために行うオンボーディングは、入社前から入社後にかけて行われます。入社前は先輩社員との座談会や職場見学、懇親会、面談など、入社後は企業文化やルールの説明、業界に関する知識の説明、業務に関する研修、キャリア面談などを行うのが一般的です。
既存社員にとっては当たり前のものとなっている企業ごとの文化やルールですが、理解してもらうための取り組みを行わなければ、新しく入社する社員は戸惑ってしまいます。オンボーディングは様々な取り組みを通して早く企業風土に慣れてもらうために必要なプロセスなのです。
なぜオンボーディングが重要なのか?
早期退職を防ぐ目的があり、多くの企業が導入を始めているオンボーディング。どうしてオンボーディングが重要と考えられているのでしょうか?その理由を解説します。
即戦力化までの時間が短くできる
企業としては「入社した社員にできるだけ早く活躍してもらいたい」「一人前になってもらいたい」と考えるものですが、まず会社の文化やルール、業界に関する知識がなければ、戦力として活躍することはできません。
特に中途採用の場合は、即戦力としての活躍が求められがちですが、会社の文化やルールを理解していなければ、本来持っている能力を発揮できません。いくら能力が高い人材だとしても、まずは職場に馴染み、一緒に働く仲間と人間関係を構築することは非常に大切です。
オンボーディングを導入することで、新しく入社した社員が自社で能力を発揮するための土台作りができます。
帰属意識を高めることができる
オンボーディングを導入すれば、様々な取り組みを通して、企業に対する理解だけでなく、部署や一緒に働く上司・同僚などへの理解も深まっていきます。オンボーディングは採用担当や配属部署の担当だけが新入社員をサポートするのではなく、会社全体となって社員をサポートするものです。
オンボーディングの取り組みを通して一緒に働く仲間とつながっていくことで、帰属意識が高まり、企業の一員としての自覚も芽生えるようになるでしょう。人間関係が構築されれば、会社への思い入れも強くなります。
また、実際に一緒に働くことがない取締役などの立場の人たちと接する機会を作ることで、組織へのエンゲージメントも高まります。オンボーディングを行うことで、社員自身が「会社に求められている」という感覚を持つので、「期待に応えたい」というモチベーションアップにもつながるのです。
採用コストが削減できる
一人の人材を採用するだけでもかなりの採用コストがかかってしまいます。採用するためには求人を出す広告費や説明会の開催費用以外にも、人件費や紹介会社への手数料、研修費用などかなりの額が必要です。
早期退職する社員が出てくると、人材を補うためにさらにコストをかけなければなりません。オンボーディングを導入して早期退職を防ぐことができれば、追加で採用コストをかける必要がなくなるため、大きなコスト削減につながります。
信頼関係の構築
オンボーディングは、ただ企業の風土を理解してもらうものではなく、会社で働く様々な人たちと人間関係を築いていくものです。早い段階で横のつながりをしっかり作っておくことで、風通しのいい人間関係が構築できるため、業務もスムーズに行えます。業務や職場に関する悩みが生まれたとしても、信頼関係ができていれば、すぐに退職するという結論には至りにくいです。
入社してすぐの期間は、社員が持つ会社のイメージを大きく左右します。この時期に「働きにくい会社だ」というイメージを持たれてしまうと、なかなかイメージを覆すことができません。この時期に信頼関係を構築し、「働きやすい環境だ」と思ってもらうことは非常に重要なのです。
また、オンボーディングは新入社員だけにメリットがあるものではありません。全社員で新入社員をサポートすることで、既存の社員も改めてお互いのことをさらに知る機会になります。その結果、部署全体の雰囲気がよくなり、より高いパフォーマンスが望め、業績アップも見込めるでしょう。
オンボーディングの導入プロセス
社員の早期退職を防ぐオンボーディングは、どのようにして導入すればいいのでしょうか。導入プロセスを段階的に解説しますので、今後導入する際の参考にしてみてください。
目標の設定
まず、オンボーディングを導入する上での具体的な目標を設定します。新しく入社する社員にどのようなスキルを求めるのか、どんなふうに活躍して欲しいのかを短期的・長期的に考えます。
これまで早期退職者が相次ぐなどして、企業として課題を抱えているのなら、そうなってしまった原因を洗い出すことも大切です。社風とのミスマッチ、業務とのミスマッチ、人間関係の問題など、退職者が抱えていた問題を見直してみましょう。その上で、その課題をどのようにして解決するかを検討すると目標が設定しやすいです。
プランの作成
目標が設定できたら、プランを作成していきます。オンボーディングのプランは入社から1年程度の期間を見据えて作成するようにしましょう。
まず、目標をクリアするためにはどのような施策を行うのかを考え、段階的に実施スケジュールを立てていきます。入社前、入社当日、1週間後、1ヶ月後…というように、実施する内容を決めていきましょう。
オンボーディングの効果を高めるためには、一人ひとりに合わせてスケジュールを組む必要があります。この段階ではベースとなるプランを組んでおき、実際に新入社員と関わりながら、その都度プランを見直していくことも大切です。
すり合わせ
プランの作成が完了したら、新入社員と一緒に働く既存社員や管理職と一緒にプランのすり合わせを行います。プランを作成する人事担当者・採用担当者と現場社員とは抱えている課題や問題にズレが生じていることが多いため、このプロセスは非常に重要です。
まずはプランを共有し、フィードバックをもらい、改善点があるかを確認しましょうここでプランを共有しておくことで、既存社員がオンボーディングの重要さを理解でき、新入社員を受け入れるための準備ができます。
改善の必要がある場合は、現場の声を参考に見直しを行なっていきます。また実際にオンボーディングを実施し始めてからも、その都度、現場の社員や管理職とのすり合わせを行うことも大切です。
実施
すり合わせを行ってプランの見直しができたら、実施に移ります。新卒社員の場合は入社前からオンボーディングを実施する企業も多いです。プランに沿って行っていきましょう。導入してすぐの頃は、既存社員側もオンボーディングに戸惑いを持ちます。積極的にフォローし、スムーズに実施できるようサポートしていきましょう。
オンボーディングに限らず、新しい制度を導入する際は思うようにいかないこともあるはずです。しかし、全員が試行錯誤しながらオンボーディングの成果を実感することで、次回オンボーディングを行わなければならなくなった時も、前向きに取り組めるようになります。
もちろん新入社員への対応も、現場に任せるのではなく、しっかりフォローしていきましょう。
振り返り
オンボーディング実施中や、当初決めていたプランが終了した際は、その都度振り返りを行います。1年程度という長期間で実施していくものですから、プラン終了後だけではなく、定期的に振り返りを行うことが大切です。
特に導入して初めてオンボーディングを実施すると、様々な課題や問題点が浮き彫りになります。課題や問題点にできるだけ早く対応することは、目標達成のために必要不可欠です。現場の社員と新入社員どちらにもヒアリングを行いましょう。
プランが終了した際は、総まとめとして現場の社員と新入社員の双方からヒアリングを行い、オンボーディングによってどのような効果が得られたのかを把握することが大切です。改善できる点がないか、効果が大きかった取り組みはなんだったのかをまとめ、次につなげていきましょう。
導入時のポイント
オンボーディング導入の効果をできるだけ大きくするためには、いくつか押さえておきたいポイントがあります。効果的なオンボーディングを実施し、社員にとっても企業にとってもメリットのあるものにしていきましょう。
新卒入社者だけでなく中途採用者にも適用
オンボーディングを新卒社員だけに行っている企業もありますが、中途採用の社員にもオンボーディングを実施しましょう。新卒社員の場合、研修も充実していることが多く、企業側も「ケアしなければならない」という意識を持っていますし、同期もいます。しかし、中途採用者は一人で部署に飛び込む形になるため、部署ごとの対応が馴染みやすさを左右してしまいがちです。
即戦力として活躍できるスキルや能力をいくら持っていても、企業に馴染めなければ、その実力を発揮できません。実力がある人材ほど「合わない」と感じればすぐに見切りをつけますから、中途採用でもオンボーディングで会社に馴染める環境を作ることは非常に重要です。「経験があるから大丈夫だろう」ではなく、まずは会社に馴染んでもらえるよう中途採用の社員にもオンボーディングを実施しましょう。
企業によってどこまで対応できるかが異なるとは思いますが、正社員に限らず、全ての人材にオンボーディングをすることができれば、一人ひとりのモチベーションを高められます。結果としてそれが企業力の向上につながるでしょう。
受け入れ側への周知
オンボーディングを実施する際、どうしても新入社員の方に意識が向いてしまいます。ただ、実際に新入社員を受け入れる既存社員がオンボーディングを理解していなければ、プラン通りに進められませんし、期待する効果も得られません。
オンボーディングを導入するのであれば、まず既存社員にオンボーディングの目的や意図を周知徹底しましょう。実際に新入社員と深く関わる事になる社員には、実施内容などもより詳しく理解してもらう必要があります。
採用基準の明確化
オンボーディングの効果を高めるためには、企業側がどんな人材を求めているのかという採用基準を明確にしておく必要があります。また、特に新卒社員の場合はどんな社員に育てあげたいのかという基準も明確にしておく必要があるでしょう。
オンボーディングの導入プロセスで最初に目標設定を行いますが、その目標からズレた人材を採用してしまっては、いくら充実したプランを実行しても思うような効果を得られません。状況によって求める人材は変わってくるはずですが、採用を検討する段階で、基準をしっかりと決めておくことが大切です。
オンボーディングを導入して新入社員の定着率を高めよう
少子高齢化で人材不足が問題となっている今、せっかく入社した社員の早期退職は企業にとって大きな痛手です。また、早期退職が続いてしまうと、それが広く知られるようになり、なかなか優秀な人材を集められなくなります。
新入社員が働きやすい環境を整え、定着率を高めることは企業にとっての重要な課題です。オンボーディングを導入して定着率を高め、企業力も高めていきましょう。