離職率低下にも期待できるレジリエンスとは?
時代の変化にともない、労働環境の変化も著しい現代において、離職の増加は重大な問題といえます。ここでは、幅広い分野で降りかかるストレスや逆境から、自己を回復させることで、離職率低下にも期待できるとして注目されている「レジリエンス」について、詳しく解説していきます。
レジリエンス(resilience)とは?
レジリエンスは「回復性」や「弾性」などを意味する言葉で、元々は「物体の弾性」を表す用語ですが、ビジネスシーンにおいては「しなやかさ」や「ストレス跳ね返し力」として認識されています。対義語である「脆弱(ぜいじゃく)性(vulnerability)」よりもレジリデンスが上回ることで困難な状況でも回復できると考えられており、ストレス社会である現代に注目されています。
ビジネスシーンにおいてのレジリエンスは、「社員」と「組織」の両方に着目し、仕事に関するストレスからの回復力として定義し、重要視しています。また、心理学的には、個人が幼少期のトラウマや、職場の人間関係によるストレスから心理的に回復することとして定義されます。
レジリエンスはいつから注目されているのか?
レジリエンスが注目されはじめたのは、「レジリエント・ダイナミズム(強靱(きょうじん)な活力)」をメインテーマとした、2013年の「世界経済フォーラム(ダボス会議)」がきっかけといわれています。ここでは、各国の国力が、「レジリエンスの高さ」によって評価され、日本は「東日本大震災からの復興」がレジリエンスが高い事例として評価されています。さらに、2年後の国連サミットで「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択されたことで、ますますレジリエンスへ注目が高まり、SDGsの「17の目標」および「169のターゲット」中でも「レジリエンス」や「レジリエント」などの言葉が度々使用されています。
そして、時代や労働環境の変化にともなって、個人や企業に対しても「レジリエンス」という言葉が徐々に使われるようになり、ビジネスシーンに浸透しつつあります。
なぜビジネスシーンで注目されたの?
国際的な場から様々な文脈で用いられている「レジリエンス」ですが、ここでは、ビジネスシーンにおける社員や企業のレジリエンス向上が注目されている理由について詳しく解説します。ビジネスシーンで注目されている背景には、「VUCAの時代の到来」と「労働者のメンタルヘルス対策」などの理由があるようです。
VUCAの時代の到来
現代社会はVUCA、つまり「将来を予測することが困難な」時代が到来しているといわれています。個人がデジタルデバイスを所有することで社会全体のデジタルシフトが一気に進み、人々の価値観や生活様式までもが一変するような事態になっています。そんな状況で求められるのは、「いかに変化を起こしていくか」という変革への対応力であり、「意思決定や迅速な対応」や「状況の変化に対応する臨機応変さ」「多様性を受け入れるコミュニケーション力」「最もよい答えを導き出す問題解決力」です。これらの力がレジリエンスの要素と合致するため、ビジネスシーンにおいて注目度が高まっているのです。
メンタルヘルスへの対策
「ストレスチェック制度の創設」や「医師による面接指導の強化」といった形で「労働安全衛生法」が改正されたとはいえ、依然として労働者のメンタルヘルス問題は、根深いものがあります。
厚生労働省の発表した調査結果によると、メンタルヘルスの不調によって連続一か月以上休職した、もしくは退職した労働者は、全体の約1割になり、近年この状況は続いてます。また、現在の仕事や職業生活に関して強い不安やストレスを感じている事柄があると答えた労働者の割合は、約半数にも及び、休職・離職予備軍ともいえる労働者も多数いることがわかります。
職場におけるメンタルヘルス対策は、急務といえます。メンタルヘルス対策として重要な「ストレス耐性」や「心身の健康」にも関わるため、レジリエンスへの関心も高まっています。
レジリエンスが高い人・低い人とは?
レジリエンスは、仕事のストレスや、職場での人間関係によるストレスを感じた後の回復力、復元力を指す言葉として使用されています。レジリエンスの要素として挙げられるのは、自分の軸、しなやかな思考、対応力、人とのつながり、セルフコントロール、ライフスタイルの6つです。これらの要素が備わっている人ほどレジリエンスが高いということになります。ここでは、レジリエンスが高い人と低い人の特徴や、高めることによるメリットなどについて解説していきましょう。
レジリエンスが高い人の特徴
レジリエンスが高い人の特徴は、柔軟な考え方や発想ができ、自分にも人にも優しく協力関係を築いていける人です。自分の長所をきちんと認識し、苦手なことや上手くできない仕事にあたっても、すぐには諦めずに周囲に質問したり、試行錯誤したりできるのも特徴です。食事や睡眠などが十分に摂れていて、心身ともに健康であることも大切な要素です。
レジリエンスが低い人の特徴
逆にレジリエンスが低い人の特徴は、既存の考え方を固辞しがちであったり、自分や周りに厳しく、協力体制や信頼関係が築けていない人です。自己評価が低めであったり、自分の短所に目が行ってしまうのもレジリエンスが低い人の特徴で、長期的な案件や難しい仕事にあたったときにも、「自分には無理」と早々に諦めてしまうこともあります。
レジリエンスを高めるメリット
現代社会の様々な分野で注目されつつあるレジリエンス。ビジネスシーンにおいてレジリエンスを高めることは、どのようなメリットがあるのでしょうか。いくつかのメリットについて詳しく見ていきましょう。
離職率低下につながる
組織のレジリエンスを高まると、ハードな仕事のストレスに適切に向き合える社員が増え、ストレスが起因することによる体調不良が起こりにくくなり、離職する社員を減らす効果が期待できます。離職率が下がることで新たな人材の確保や、引継ぎなどのロスが減り、効率的に仕事が進められるのもメリットの1つです。
レジリエンスが高い社員は、仕事のストレスも前向きにとらえることができ、適度な緊張感をもって仕事に取り組んでくれます。
組織にダイバーシティが生まれる
性別や年齢にとらわれないことはもちろん、外国人労働者など多様性が求められる労働環境において、レジリエンスの高い社員が多い組織は非常にストレスの少ない環境であるといえます。組織全体のレジリエンスが高まることで、ダイバーシティが生まれ、偏見や固定観念にとらわれないアイデアや企画を生み出す土壌が整い、新たな価値観を共有することができます。
戦略転換やリスクにも臨機応変に対応できる
組織で仕事をしていくうえで、当初の戦略からの転換や、リスクマネジメントは必須といえます。どんなに緻密に計画を練り、準備をしても事態が急変することもあります。そのような事態が起こったときに、レジリエンスの高い組織であれば、臨機応変に対応し、チームで協力しあって対応していくことが可能です。それぞれの社員が柔軟に思考し、困難な状況を打破することが期待できます。
レジリエンスを高める方法
レジリエンスを高めることは、組織だけでなく、社員一人ひとりにとってもメリットが多いと思います。では、どのように高めていけばいいのでしょうか。ここでは、自分のレジリエンスを高める方法について解説します。
自己効力感を高める
レジリエンスを高める方法の1つとして、自己効力感を高めることがあげられます。自己効力感とは、「自分ならできる」「きっとうまくいく」と認知して、物事に取り組んでいくことです。自己効力感を高めるには、小さな成功体験を積んでいくことや自分と似た環境や性格の他者をロールモデルとして観察するなどがおすすめです。
簡単なことからでも「最後までやりきった」という達成感を得ることで、自己効力感が育ちます。自己効力感は自己肯定感と同様に、仕事のパフォーマンスや人生の満足度の向上において、重要な概念といえます。
思考パターンを変える
長年培ってきた自分の思考パターンを変えるのは、なかなか難しいことだと考えられていますが、思考を変える正しい方法を実践することで、新しい思考パターンを築くことができます。臨床心理学の博士アルバート・エリスが提唱したカウンセリング理論、「ABCDE理論」という論理療法をご紹介しましょう。
外部からもたらされる出来事や人間関係、生活環境(A)に対して、自己の持つ信念にによる解釈がなされ(B)解釈内容の結果感情や行動、身体反応(C)が引き起こされます。
具体的な例としては
- A:出来事
職場で上司にミスを指摘された。 - B:考え方
上司の期待に応えることができず、仕事ができないと思われてしまったに違いない。 - C:感情
自分は何をやってもうまくいかない。
事例にあるような経験はないでしょうか。ABCD理論では、感情のまま終了するのではなく、反論(D)というアプローチを行います。自分の考え(B)に対する反論として「自分に期待しているからこそ、指摘してくれた」という新たま捉え方をすることで、「次回は同じミスをしないようにしよう」という感情に転換させることによって得られる心理的および思考的な影響を効果(E)と呼んでいます。
このようにネガティブな感情や、マイナス思考を修正することによって思考パターンが変わっていき、物事を多面的に捉える習慣がつき、徐々にレジリエンスが高まっていきます。
周囲に共感し、サポートしてもらえる関係性をつくる
初めて担当する仕事や、レベルが高く、自分一人では難しい仕事に取り組む必要がある場合、誰にもサポートしてもらえないと、失敗したり、進行が厳しい状況になります。普段から周囲に共感したり、コミュニケーションをとり、自分から積極的にサポートしていくことで信頼感を築いていくことをおすすめします。
気心の知れた仲間には素直に頼れるし、いつもサポートしている相手は、「お返ししてあげたい」という返報性の原理が働くので、力になってくれる可能性が高いです。周りの人との協力で得た成功体験は、個人としてだけでなく組織としてのレジリエンスも高められるメリットがあります。
チーム(企業)のレジリエンスを高める方法
個人のレジリエンスを高めることはもちろん大切ですが、これからのビジネスシーンでは企業のレジリエンスを高めることが、メンタルヘルスの対応として急務でもあり、とても重要です。ここでは、企業のレジリエンスを高める方法について詳しく解説します。
企業文化の醸成、独自性の追求
社員一人ひとりが、自分の勤める企業が何のために存在し、社会にどのような価値を提供しているのかという存在意義を明確に意識することで普段の行動レベルにも変化をもたらすことが重要です。
社員の行動の集合した姿が企業の文化として根付き、環境変化にも対応できるチームが構成されていきます。しっかり根付いた土台の上で自由な発想や臨機応変な思考が独自性となって、環境や社会のニーズの変化にも柔軟に対応できる武器となり、企業全体のレジリエンスが高まっていくでしょう。
心理的安全性の高い職場づくり
仕事での個人的なミスは、小さなものも大きなものもありますが、どんなミスでも報告、連絡、相談が滞ることで、取り返しのつかない事案になってしまうことが少なくありません。レジリエンスの高い職場にするためには、心理的安全性の高い職場をつくることが大切です。チームの誰かがミスをしてしまった際の報連相を迅速に行うことができ、解決策をチーム一丸となって考え、乗り越えることで個人のレジリエンスも促進されます。
失敗を恐れて挑戦しない、積極的にかかわらない環境では、新たなアイデアや商品は生まれません。「失敗は成功のもと」とチャレンジ精神を促す組織づくりが高いレジリエンスを持つ社員を育てられ、結果的に企業のレジリエンスが高められていくことになります。
「レジリエンス」を高めることは、企業はもちろん個人的にもメリットが高い
ビジネスシーンにおける「レジリエンス」の重要性について、解説してきました。これからの社会は、変化やニーズが目まぐるしく、先が読めないVUCAの時代です。
これまでの考え方や思考パターンを今一度見直して、柔軟なアイデアや臨機応変な対応ができるようなメンタルトレーニングを行っていくことで、レジリエンスの高い社員や企業として成長していけます。日本の職場でも大きな問題となっている離職率の増加や、メンタルヘルスの対応にも効果が期待できるため、レジリエンスを高めることは、とても重要ですが、豊かな人生、充実したライフスタイルの確立など、個人的なメリットも多いので、レジリエンスを高める方法を実践してみることをおすすめします。