ジュニアボード制度とは
ジュニアボード制度は、若手社員や中堅社員による疑似役員会のことです。近年多くの企業がジュニアボード制度を取り入れ、人材育成に役立てています。ここではジュニアボード制度の概要やメリット、事例などを紹介します。
ジュニアボード制度の概要
まずは、ジュニアボード制度がどのようなものなのかを知っておきましょう。概要を説明します。
若手や中堅社員で構成される「疑似役員会」
ジュニアボード制度は、選抜した5〜10名の若手社員や中堅社員で構成される疑似役員会です。実際の役員会とは異なりますが、同じように経営課題について話し合い、解決方法の提案などを行います。
社員は日々の業務を通して成長していきますが、通常業務では経営に関する経験を積むことができません。だからと言って、役員会に参加させることも不可能です。そこでジュニアボード制度を導入し、経営に関する意思決定を疑似体験することで、経営への参画意識を持ち、将来役員として経営に携わるための下地作りを行うことができます。
考案したのは香辛料メーカーのマコーミック社
ジュニアボード制度の誕生は、1930年代までさかのぼります。アメリカにある香辛料メーカー・マコーミック社が考案した疑似委員会が、現在のジュニアボード制度の始まりだと言われています。
マコーミック社では、従業員の意見を経営に生かす取り組みとして、従業員で構成される疑似役員会やさまざまな委員会を設置しました。この経営スタイルは「複合経営制(Multiple Management)」と呼ばれ、擬似役員会は「ジュニアボード(Junior Board of Directors)」と名付けられています。
ジュニアボード制度の目的について
ジュニアボード制度の導入を検討する前に、どのような目的があるのかも把握しておきましょう。2つの目的を紹介します。
次世代の経営人材の育成のため
ジュニアボード制度導入の目的の一つは、次世代経営人材の育成です。先ほども解説しましたが、社員は日々経験するさまざまな業務を通して実力をつけ、キャリアアップしていきます。
しかし、一般社員が経営に携わる機会はほとんどなく、経営人材として求められる課題の分析や経営戦略の策定、意思決定などに関する能力を身につけることができません。
ジュニアボード制度を導入すれば、疑似的に経営課題を話し合い、意思決定のプロセスを経験するため、将来活躍できる経営人材として求められる能力を身につけられます。
次世代の意見を経営に反映するため
もう一つの目的は、次世代を担う社員の意見を経営に反映させることです。ジュニアボード制度を考案したマコーミック社も、元々従業員の意見を経営に取り入れるために、疑似役員会を設置しました。
経営陣だけで意思決定を行うと、意見が固定化されたり、守りに入ってしまうことも少なくありません。また、経営陣と現場で働く一般社員の考えに大きな違いが生まれてしまい、それが経営の問題となってしまうこともあるでしょう。ジュニアボード制度を導入して、若手社員や中堅社員の意見を取り入れれば、これまでにない意見が生まれる可能性が高く、企業の活性化につながっていきます。
ジュニアボード制度を採用するメリットは?
ジュニアボード制度を採用すれば、企業にどのようなメリットが生まれるのでしょうか。3つのメリットを紹介します。
社員の意識向上
日々経営に携わることのない若手社員や中堅社員にとって、経営課題は自分に関係のない問題として捉えられていることが多いです。しかし、ジュニアボード制度を導入して、経営問題に携わることで、大きな視点で会社が行っている事業を捉えられるようになります。「経営に携わっている」「アイディアが取り入れられた」と実感できることで、モチベーションも向上するでしょう。
また、広い視野で事業を見渡せるようになれば、日々取り組んでいる業務への理解も深まります。自分の仕事に対する考え方も変わり、仕事への取り組み方が変わってくるでしょう。
社内コミュニケーションの活性化
ジュニアボード制度は、若手社員・中堅社員と経営陣がコミュニケーションを取る場にもなります。普段なかなか意見を交わすことがない若手社員・中堅社員と経営陣が接することで、社内コミュニケーションは大いに活性化していくはずです。
また、若手社員や中堅社員同士も、普段の業務の枠を超えて交流することになります。新たな横のつながり、縦のつながりが生まれることで、社員同士の関係がよりよくなり、日々の業務にもいい影響を与えてくれるのです。
経営課題の再確認
ジュニアボード制度で若手社員や中堅社員に経営課題を認識させることで、経営陣は現在抱えている経営課題を改めて認識することができます。これまで見えてこなかった課題を見つけられるかもしれません。
また、ジュニアボード制度に参加する社員も、経営課題を自分ごととして捉えられるようになるため、会社が経営改善のために行う取り組みへの理解が深まります。より協力的な姿勢を見せてくれることも期待できるでしょう。
ジュニアボード制度を通して、経営への参画意識を高め、日々の業務へのモチベーションを高めることは、結果として離職防止にもつながっていきます。多くの企業で人材不足が問題となっている今、ジュニアボード制度は若手・中堅の離職を防ぐメリットも期待できるのです。
ジュニアボード制度の進め方について
ジュニアボード制度の目的やメリットを理解したところで、具体的な進め方について見ていきましょう。導入を検討している方は、ここから紹介する進め方を参考にしてみてください。
メンバーの選定
ジュニアボード制度を導入する上で最初に行わなくてはならないのが、参加するメンバーの選定です。選定方法は自薦か他薦になりますが、一般的には事業部長クラスなど一定レベル以上の役職者による他薦が行われることが多いようです。
ジュニアボード制度に参加する人数は、5〜10人程度と考えておきましょう。任期は会社によっても異なりますが、半年程度となることが多いです。メンバーによってジュニアボード制度導入による効果が大きく左右されますから、慎重に検討しましょう。
また、メンバーの選定と同時に、議論を行う課題の選定も行わなければなりません。経営における重要課題を選定すべきですが、スムーズな議論が行えるように取り組みやすさも考慮しておきましょう。
提案の検討・実施
メンバーと課題が決定したら、提案の検討と実施を行います。まずは、提案を検討するための調査・分析の時間を設定しましょう。その後、月1回程度の頻度でミーティングを行い、議論を重ねていきます。
議論を重ねて提案内容が固まったら、最終役員会を実施して提案を行います。役員会によって承認・非承認を決議しましょう。
プロジェクトの立ち上げ
ジュニアボードからの提案が承認された場合は、プロジェクトチームを立ち上げて、実際に課題解決に取り組みます。プロジェクトを立ち上げる際は、提案内容を社内でシェアしましょう。
ジュニアボード制度に参加していない社員にも理解してもらうことで、会社全体で取り組むべき課題であることを周知徹底でき、取り組みへの協力も仰げます。
ジュニアボード制度を導入する際の注意点
ジュニアボード制度を導入する際には、いくつか注意しておきたいポイントがあります。導入する際には、これから紹介する注意点を押さえておきましょう。
継続的に取り組む必要がある
ジュニアボード制度は、短期で効果が得られるものではありません。提案までにも半年程度かかりますし、実際にプロジェクトチームを立ち上げれば、さらに長い期間取り組み続ける必要があります。また、実施したからといって承認できる提案が行われるとは限りません。
社員がジュニアボード制度の重要性を理解できるようになるまでにも時間はかかります。早い段階で「効果がない」とやめてしまうのではなく、経営陣が継続的に取り組む意識を持つことが重要です。導入当初は思うように議論が進まない可能性もありますが、その都度改善を行いつつ、議論が発展しやすいように促すなどの工夫も必要です。
アイディアが斬新すぎても積極的に
若手社員や中堅社員が議論を行うと、経営陣から見て斬新すぎると感じるアイディアが出てくる可能性も高いです。普段の議論では出てこないアイディアかもしれませんが、それが現在抱える課題解決のヒントになる可能性もあります。
斬新すぎるアイディアが出た場合に頭ごなしに否定するのではなく、積極的に受け入れる姿勢を持ちましょう。これまでの価値観で否定してしまうと、参加しているメンバーのモチベーション低下にもつながってしまい、思うような効果が得られないどころか、マイナスに影響してしまいます。非承認の場合でもいいところを見つけて評価し、改善をアドバイスする場合でもポジティブな対応をしましょう。
ジュニアボード制度の企業事例
最後にジュニアボード制度を導入して成功した企業の事例を紹介します。導入する際は、事例も参考にしつつ、自社なりの方法で取り組んでみましょう。
株式会社パソナグループ
株式会社パソナグループでは、若手社員のコミュニケーション活性化を目的として、ジュニアボード制度を導入しています。全国の社員から10数名をメンバーとして選定し、任期は1年です。
議論の場を月に1度設け、社長を中心として経営方針や戦略について話し合うことを通して、普段の業務では接することがないメンバーとの交流を図っています。また、業務に対する考え方を変えることも導入の目的です。承認された提案は、具体的にプロジェクトとして進められています。
ユニ・チャーム株式会社
ユニ・チャーム株式会社も、ジュニアボード制度を導入している代表的な企業です。経営陣と共に経営課題を議論し、検討した内容を会社が実際に行う施策に反映されています。任期は1年間です。
また、経営者としての考え方や取り組み方を学ぶ機会として、ジュニアボードメンバーに経営者のカバン持ちを担当させる取り組みも実施しています。2ヶ月間カバン持ちとして経営者と接することで、将来のキャリアをしっかり考える機会を作っています。
株式会社日本総合研究所
株式会社日本総合研究所では、若手・中堅社員の意見を反映させて企業改革を目指すことを目的とし、ジュニアボード制度を導入しています。導入した年にはメンバーは自薦と事業部長による他薦で募集され、論文・社長面談を経て、30代の中堅社員を中心としてチームが構成されました。
1年の任期で具体的な2つのテーマを検討・提案し、具体的なアクションプランの作成も行われています。またプロジェクトチームの立ち上げに伴い、ジュニアボードメンバーの一部が新設部署で取り組みに参加しました。
株式会社ベネフィット・ワン
2005年度にジュニアボード制度を採用した株式会社ベネフィット・ワン。若手社員から選抜された10名でチームを構成し、社長管轄のもと課題の検討、提案に取り組んでいます。
経営陣と意見交換する機会を頻繁に作ることで、経営人材としての能力を身につけることが目的です。また、参加していない社員もジュニアボード制度を身近に感じられるよう、ジュニアボードが主体となって社内報を作成しています。
まとめ
1930年に誕生した歴史あるジュニアボード制度ですが、日本では近年急速に広がりを見せており、多くの企業が導入を開始しています。社員育成と企業改革が同時に行える取り組みですから、企業としての成長を目指すためにも導入を検討してみてはいかがでしょうか。また、ジュニアボード制度の導入によって、社員のモチベーションや帰属意識を高めることは、離職防止にもつながっていきます。自社で将来を担える人材を育て、さらなる企業の発展を目指しましょう。