離職率防止にも活用できるキャリアアンカーとは?
こちらの記事では、「キャリアアンカー」について紹介します。自身が納得できる働き方を選ぶ際、また企業が人員配置を行う際などに活用できる考え方となっていますので、ぜひ活用してみてください。
キャリアアンカーとは
キャリアアンカーとは、自分や周りの人が「仕事において何を最も大切にしているのか」という価値観を示す言葉です。これは、アメリカの組織心理学者であるエドガー・シャインによって、1970年代に提唱されたキャリア形成の概念とされています。
ちなみに「アンカー」とは英語で「船の錨」を意味しています。船が停泊している時に、錨がしっかりと海底に降りているところを想像すると、「キャリアアンカー」という言葉もなんとなくイメージがつきやすいのではないでしょうか。
キャリアを形成するにあたっては、その軸となる「アンカー」をはじめに把握しておくと、「どのようなものを仕事に求めているのか」という点がわかりやすくなります。このことによって、自身が納得できる働き方を選びやすくなるといわれています。
キャリアアンカーは、もちろん自分のキャリア形成のために利用できますが、その他にも企業の従業員の特性や能力を測定するためのツールとしても活用できます。例えば採用や人事異動などにこのキャリアアンカーを活かすことによって、生産性の向上などにつながる可能性があります。
ここで、キャリアアンカーと混同しやすい2つの言葉「キャリアサバイバル」と「プランドハプンスタンス」との違いについて見ていきましょう。
キャリアサバイバルとの違い
「キャリアサバイバル」とは、個人が仕事上で譲れないものや大切にしているもの(キャリアアンカー)と、組織がもつニーズなどをマッチさせる考え方をいいます。
キャリアサバイバルにおいては、ひとりひとりのキャリアアンカーはもちろん、「企業が成長するためにはどのように貢献できるのか」であったり、「どのように行動すれば、組織の期待に応えられるのか」といった点についても重視されることになります。
すなわち、キャリアアンカーは「個人の視点」、対してキャリアサバイバルは「組織や企業における視点」についても考慮されている、といった違いがあるといえるでしょう。
プランドハプンスタンスとの違い
また、「プランドハプンスタンス」とは、「意図された偶然」「計画された偶発性理論」などと訳されるキャリア理論です。この理論では、キャリアは偶然の要素によって左右されるものが多いことから、その偶然に対して前向きなスタンスでいたほうがキャリアアップにつながる、という考え方をします。キャリアステップは当初の計画通りに進むとは限りませんが、異なる方向に進んだとしてもそれを意図的にキャリアの形成に活かしていこう、といった考え方です
キャリアアンカーは、もし環境が変化としても基本的には変わらないものです。しかしプランドハプンスタンスは、変化へ対応する、ということを前提としているといった違いがあります。
キャリアアンカーを知るための3つのポイント
自分のキャリアアンカーを知りたいと思ったときには、下記の3つの問いについて考えてみると良いでしょう。
- 自分はいったい何が得意なのか(コンピタンス)
- 自分は何をやりたいのか(動機)
- 何をやっている自分に意味や価値を感じるのか(価値観)
「自分は何が得意なのか」という部分については、例えばコミュニケーションや語学力、資格、プログラミング能力などさまざまなスキルを挙げてみましょう。また「自分が何をやりたいのか」という部分は、これまでに自分にとってワクワクするような高揚感があった出来事などを考えてみるとわかりやすいはずです。そして、「何をやっている自分に意味や価値を感じるのか」といった部分については、長期的な視点で考えたときに、自分は何に意味を見出すかといった点を考えてみましょう。
このように、まずは自分の認識を明らかにし、これらの答えが重なる部分の仕事を選ぶことによって、働く上での満足度を上げられると考えられているのです。
キャリアアンカーにおける適職例
ここまで紹介してきたキャリアアンカーは、8つのタイプに分類されると考えられています。ここでは、それぞれのタイプの特徴とどのような職種が適しているのかといった点についてご紹介していきますので、ぜひチェックしてみてください。
専門・職能別能力(Technical/Functional Competence)
こちらのタイプは、「研究開発」や「エンジニア」が向いているといわれています。
「専門・職能別能力」タイプは、ある特定の分野において、専門家として自分の能力を発揮したいタイプです。自分の才能を発揮して専門性を高めることや高い技能を身につけることに満足感や魅力を感じるため、得意とする分野におけるスペシャリストとしての活躍を望みます。
一方で、自分の能力を発揮できない部署などに配属された場合には、やりがいを見失ってしまうために仕事に対する満足感が大きく低下する可能性もあります。
経営管理能力(General Managerial Competence)
こちらは「マネージャー」や「経営者」などが適しているといわれるタイプです。
いわゆる管理職としてチームをまとめたりすることに対して自分の能力を発揮したいと考える傾向があるとともに、「責任のある仕事に就きたい」「組織を動かしたい」といった気持ちが強いという特徴があります。
また、経営全般に関わる能力を身につけるために、若いうちにさまざまな部署での経験を積極的に積んでおきたい、と考える傾向もあるとされています。
自立・独立(Autonomy/Independence)
こちらのタイプは「フリーランス」や「芸術家」などが向いているといわれ、簡単にいうと自分のペースやスタイルを守りながら仕事をしたい、という考えを持っているタイプといえるでしょう。そのため、集団行動のための規則や手順、規定、作業時間などに縛られることを苦手とする傾向があります。
また、このタイプの場合には「自分自身が納得できるやり方で進めたい」という気持ちを強く持っている点も特徴のひとつとなっていることから、組織の中では上司との距離が近く、提案や相談、ディスカッションなどがしやすい環境で力を発揮するケースもあります。
保障・安定(Security/Stability)
その名の通り、安定した報酬や仕事など「安定している」という点を最も重視するタイプです。
そのため、将来の出来事を予測することが可能であり、安全・確実と感じられる中でゆったりと仕事をしていきたいと考える傾向があります。また、終身雇用や保証などにこだわりを持つことから、「大企業の社員」や「公務員」として働きたいと考える人が多いとされています。
大きな変化を苦手とするために、転職やキャリアチェンジには保守的な面が見られたり、他部署への移動や働き方に変化が起きることに抵抗を感じる場合があります。
起業家的創造性(Entrepreneurial Creativity)
こちらもその名の通り「起業家」が向いているといわれるタイプです。そのほか「新規事業開発」といった役割にも適していると考えられます。
こちらのタイプの特徴としては、リスクを恐れずに新しいものを生み出すという点に満足感や楽しみを感じることから、新しい製品やサービスなどを開発する職種や、新しい組織を作ったりする役割などに向いている、という傾向があります。
どこかの企業の社員として働いていたとしても、常に企業や独立の可能性を探っているという人も多いでしょう。もし、このタイプの人に社内にとどまって欲しいと考えるのであれば、組織の立ち上げや新しい事業を任せるのも一つの方法です。
奉仕・社会貢献(Service/Dedication to a Cause)
「教育職」や「医療、社会福祉関連職」が向いているといわれるタイプです。
こちらのタイプの場合、「仕事を通じて世の中を良くしたい」という気持ちが強く、社会に貢献することに対して価値を感じるという傾向があります。そのため、自分が持つ能力を発揮できる仕事に就くよりも、誰かほかの人の役に立っていると実感できる仕事に惹かれることが多くあります。
以上のことから、保育や社会福祉、医療といった仕事のほか、商品の開発やサービスの開発といった仕事に就きたいと 考える人が多いでしょう。
純粋な挑戦(Pure Challenge)
こちらのタイプは「営業職」などが向いているといわれています。
周りの人が無理だと感じてしまうような難しい問題や、手強い相手に打ち勝つという点に対して満足感を覚える点が特徴です。自分の得意分野はもちろんですが、もし不得意分野だったとしても「挑戦しがいがある」と感じられることについては積極的に取り組むという傾向がありますので、転職や異動についても前向きに考えるケースが多く見られます。
挑戦を好むためにハードワークも受け入れますが、逆に同じようなことを繰り返すルーティンワークは苦手な場合も多いでしょう。
生活様式(Lifestyle)
「事務職」などが向いているといわれているタイプです。個人としてどうかというだけではなく、会社のニーズや家族のニーズとの調和を大切にしたいと考える点が特徴とされています。
仕事とプライベートのバランスを常に考えていることから、在宅勤務の制度や育児休暇制度など、福利厚生のしっかりしている企業に惹かれるという傾向もあるでしょう。また昇進の話があったとしても、家族が犠牲になるような転勤が必要な場合については辞退したいと考えることもあるといわれています。
キャリアアンカーの診断方法
ここまでの内容を読んで、「自分でもキャリアアンカーを診断してみたい」また「社内で利用してみたい」と考える方もいるのではないでしょうか。キャリアアンカーは、アンケート形式の質問に答えることによって診断できます。このときのポイントとしては、深く考えずに直感で回答することです。
今ではインターネットで検索をすると、キャリアアンカーの診断ツールやエクセルなどの資料がたくさん見つかりますので、ぜひ探して診断を行ってみるとよいでしょう。
キャリアアンカーの活かし方
ここからは、実際にはキャリアアンカーは「どのような場面で」「どのように活かしたらいいのか」といった点について見ていきましょう。
自己分析で適職を知る
キャリアアンカーを知り自己分析を行うことで、「自分にとってどのような仕事が適しているのか」という点について知るきっかけにもなります。キャリアアンカーの診断を行ったときに自分では想像もしていなかったような結果が出る場合もあります。
注意しておきたいのは、キャリアアンカーの診断結果をそのまま受け入れるのではなく、あくまで自分の理解を深めるための材料の一つとして考えるようにしましょう。「自分にはこのような面もあるんだ」といった認識を持つことにより、適職を見つけるきっかけとして役立てることができるはずです。
組織での人員配置や異動に活用できる
組織においては 従業員それぞれのキャリアアンカーを知ることによって、仕事に対する価値観やどのような働き方を希望しているか、という点について知ることができます。このような情報は、採用や人材育成、人事異動などに活用できるでしょう。
キャリアアンカーに沿った人事異動は、企業の要望とそこで働く従業員が持つニーズをマッチングさせられることにもなりますので、従業員エンゲージメントの向上にもつながります。結果として、生産性が向上したり離職率が低下するといった可能性もあります。
人材育成や組織開発につなげることも
キャリアアンカーを人材育成や組織開発に活かせます。実際に、キャリアアンカーを人材育成のための研修に活用しているケースもあるようです。
また、「仕事をする上でそれぞれが大切にしている価値観」を維持できる仕事を従業員に任せると、それぞれが持つスキルを十分に活用できます。さらに、個人の価値観を重視することにもつながるために、心理的な安全性の確保も可能に。このような環境の中で従業員が自分の強みを活かしながら働けるため、組織の発展にも繋げられるといえるのではないでしょうか。
キャリアアンカーを活用する際の注意点とは?
キャリアアンカーを活用する際には、注意点がいくつかありますので、あらかじめチェックした上で利用するようにしましょう。
まず、「キャリアアンカーの診断結果のみで決めつけない」という点が挙げられます。人によっては診断結果が自分にしっくりくると感じる場合もありますし、逆にあまり当てはまらないと感じることもあるでしょう。実際にキャリアアンカーを提唱したエドガー・シャイン自身も「多くの人は8つの分類のどれかに当てはまるが、8つ以外のキャリアンカーを持っている人もいる」と言っています。そのため、あくまでもキャリアに対してどのような価値観を持っているかを知る指標のひとつとして活用すると良いでしょう。
また、8つのタイプをご紹介しましたが「タイプに良し悪しはない」ということを知っておくのも大切なポイントです。前述のように、キャリアアンカーはあくまでもキャリアに対するそれぞれの価値観を知るためのものという認識を持っておきましょう。
そしてキャリアアンカーを「個々人の強みとして社内で共有する」という点も大切です。共有することによって、それぞれの得意分野と不得意分野を把握できるため、お互いに高め合ったり不足している部分を補えるようになります。
キャリアアンカーはさまざまな場面で活用できる
こちらの記事では、キャリアアンカーについて詳しく紹介してきました。それぞれが持つ仕事に対する価値観を知ることによって、自身のキャリアアップに活用したり、社内での人事異動などへの利用もできるようになります。ぜひこちらの記事でご紹介した注意点なども踏まえながら、有効に活かしていきましょう。