早期離職防止に効果?ブラザー・シスター制度とは?
多くの企業が頭を悩ませるのが、新入社員の早期離職です。せっかく採用した社員がすぐに辞めてしまっては、業務が落ち着きません。他の社員のモチベーションにも影響するでしょう。そんな企業に検討をおすすめしたいのはブラザー・シスター制度です。ここでは、早期離職防止に効果的とされるブラザー・シスター制度の概要や注意点などをまとめました。
ブラザー・シスター制度(シスターブラザー制度)とは?
ブラザー・シスター制度(シスターブラザー制度)は、新入社員一人に対して一人の先輩社員が指導役を担う制度のことです。実務指導だけではなく、仕事への取り組み方や考え方などの指導もします。また、社会生活全般の悩みもフォロー対象です。
年齢の近い先輩社員が担当するのもブラザー・シスター制度の特徴です。ベテランがつくのではなく、1年先輩など、新入社員に近い立場の先輩が指導にあたります。年齢や社会経験値が近いことから、「兄」「姉」に見立てて「ブラザー・シスター制度」と呼ばれています。「シスター・ブラザー制度」という呼び方もあり、会社によって様々です。
一般的には一対一での指導になることが多いですが、会社によっては複数の指導役がつくこともあります。
ブラザー・シスター制度の目的は、新入社員の定着率向上です。落ち着いて仕事に取り組んでもらい、キャリアを形成してもらうために、話しやすい先輩社員をつけます。入社間もない新入社員は、慣れない社会生活や人間関係に対して不安を感じやすいものです。そんなときに年齢が離れた上司には相談しづらいでしょう。一人で悩みや不安、あるいは不満を抱えたまま退職という選択をしてしまうかもしれません。それを予防するために、相談しやすく、悩みを共感してもらいやすい立場の先輩を指導役にします。
徐々に会社に慣れて、会社自体に愛着を持ってもらい、企業への定着を促すことがこの制度の目指すところです。
メンター制度、OJT制度との違いは?
ブラザー・シスター制度に似た教育制度に、メンター制度やOJT制度があります。それぞれ違いがあるのか気になるのではないでしょうか?どれも少し違いがあります。目的や指導対象者のスキルなどによって適した制度が違うので、適した制度を選択することが大切です。それぞれの違いを紹介しますので、どんなケースに適しているか確認してください。
メンター制度との違い
メンターは、「助言者」のことです。新入社員や若手社員などの悩みに対してアドバイスをするのがメンター制度です。社会人としてのあり方や仕事への心構えなどの指導と共に、メンタル面での悩みを相談する相手になります。働き方やキャリア形成が多様化するに伴い、自分の将来像をイメージできるロールモデルの不在が課題として浮上する時があります。そのような時に、新入社員が不安なく将来のビジョンを描くためのサポート役としてメンター制度が導入されてきているという背景があります。
メンター制度のデメリットは、本音で相談しづらいことです。特に同じ部署の先輩社員をメンターにした場合、今後の仕事に支障がでることを考えて、不安や不満があっても言えません。そこで、メンター制度を導入する際は、他部署の先輩社員が担当するのが一般的です。他部署のため、業務指導はできません。ブラザー・シスター制度とは、業務指導を含まない点が大きな違いと考えていいでしょう。
また、会社によっては、「ブラザー・シスター制度は新入社員のみが対象、メンター制度は全社員が対象」としていることもあります。
OJT制度との違い
OJTは、On the Job Training (オンザジョブトレーニング)の略です。その名の通り、業務指導を行います。座学ではなく実務を通して仕事の手順や知識、技術を指導する教育方法のことです。
ブラザー・シスター制度でも業務指導をする点は共通しています。しかし、新入社員に対して少し上の先輩が指導するブラザー・シスター制度と異なり、OJT制度では中堅社員のスキルアップなども対象です。OJT制度は全社員が対象であることに加えて、指導役は年齢やキャリア差は考慮されず、その業務に精通している「上司」にあたる人がつくケースも少なくありません。
また、ブラザー・シスター制度が業務指導の他にメンタルのサポートをすることに対し、OJT制度は業務のみに特化しています。
ブラザー・シスター制度の導入メリットは?
ここまでは、ブラザー・シスター制度の概要を紹介してきました。OJT制度やメンター制度との違いも分かると、ブラザー・シスター制度は幅広く新入社員をサポートする制度だということが分かります。ブラザー・シスター制度を導入する企業は増えていますが、その理由は何でしょうか?ここでは、ブラザー・シスター制度の導入メリットを確認していきます。
早期離職の防止につながる
ブラザー・シスター制度を導入する第一目的は、早期離職の防止です。自分と近い年齢の先輩社員に総合的なサポートをしてもらえるのがブラザー・シスター制度です。悩んだときに「とりあえず」相談できます。
悩みの内容によって相談先が異なると、切り分けしなければいけません。新入社員であれば、悩んでいることが漠然として自分でも上手く整理できないこともあります。そんなときに適切な相手を探し相談するというのは大きな負担です。小さな悩みを溜め込んでしまい、蓄積すると退職してしまうかもしれません。
厚生労働省が調査した平成27年3月卒業の新卒社員のデータによると、1年目の退職が11.9%、2年目が10.4%、3年目が9.5%でした。入社後3年以内の退職者が31.8%もいます。(参考:厚生労働省「新規学卒者の離職状況」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137940.html)
企業にとっては、新入社員の早期離職対策が重要です。ブラザー・シスター制度で気軽に相談できる相手をつけることで、楽しく業務を覚えてもらううちに企業への愛着も育ち、早期離職を防止できます。
先輩社員のマネジメントスキルの向上につながる
ブラザー・シスター制度で新人指導にあたるのは、年齢が近い先輩社員です。少し前までは指導を受ける立場でした。覚えた仕事を新人に教えることで、業務への理解が深まり、知識や技術も広がっていきます。
また、新入社員を指導する経験は、マネジメントスキルの習得にもつながるでしょう。将来部下を持ったときにも役立ちます。指導することで、自分の業務の取り組み方への意識も変化するかもしれません。
ブラザー・シスター制度のメリットには、指導役を担う先輩社員のマネジメントスキルの向上があります。
人間関係の構築につながる
企業で業務を遂行するためには、社員同士のチームワークや良好な人間関係は不可欠です。様々な価値観を持つ人が集まっている組織では、相手の性格や気質、タイプに合わせてコミュニケーションを取ることが重要だといえます。指導やアドバイスを通して、お互いを深く知ることで、「どのように伝えると伝わりやすいか」「何を嫌がるのか」「モチベーションが上がるポイントはどこか」などを知ることが可能です。深い人間関係の構築ができるのは、ブラザー・シスター制度のメリットのひとつでしょう。数年後は、互いに協力しあって苦境を乗り越えたり、プロジェクトを成功させたりといった活躍が期待できます。
ブラザー・シスター制度のデメリットは?
ブラザー・シスター制度のメリットを知ると、いいことばかりですぐにでも導入したくなったのではないでしょうか。しかし、実はメリットばかりではありません。導入の仕方によっては組織が破綻するリスクもあります。導入の際は、デメリット対策が必要です。ここでは、ブラザー・シスター制度のデメリットを確認しましょう。
先輩社員に負荷がかかることもある
指導役を担当する先輩社員に大きな負荷がかかるのがブラザー・シスター制度です。上席者が楽をできる制度と考えて導入すると、破綻します。指導役が必ず思うことは「自分がやったほうが早い」です。教えてもなかなか伝わらない新人もいるでしょう。業務を教えるのは、誰しも大変です。
また、新人と上司の板挟みになるケースもあります。ブラザー・シスター制度を誤解して、言いにくいことを押し付けてくるような上司も少なくありません。メンタル面でのストレスも増大します。
こうなると、新人の前に先輩社員が退職することになりかねません。ブラザー・シスター制度を導入するときは、指導経験が少ない指導役へのサポートまで丁寧に構築することが求められます。
後輩社員の間で不公平感が募ることもある
ブラザー・シスター制度は、先輩社員との関係が良くも悪くも濃密になります。相性のいい先輩がついてくれたら、気持ちよく成長していけるでしょう。逆に、相性が悪い先輩だった場合は、逃げ場がなくなります。先輩社員の当たり外れが発生してしまうと、外れたと感じた新入社員は大きな不満を感じるでしょう。モチベーションも下がってしまうことになりかねません。
人にはどうしても相性があります。相性が悪い人と組めば、能力は発揮できずストレスが溜まるでしょう。「指導役との相性が悪い場合は変更できるようにしておく」「新入社員と先輩社員の性格やタイプの相性を見極めてから担当を決める」などの工夫が必要です。
信頼関係がうまく構築できないと制度自体が破綻することもある
新入社員と先輩社員の深い信頼関係を構築できることがブラザー・シスター制度のメリットです。しかし、信頼関係を構築できなかった場合、制度自体が破綻します。
たとえば、新入社員は先輩社員が信頼できなければやる気が出ないかもしれません。また、先輩社員は新入社員から手応えが感じられないと指導意欲が低下するでしょう。ブラザー・シスター制度が破綻してしまう懸念があります。研修などを通して、先輩社員の制度理解を深めておく必要があるでしょう。
信頼関係を構築できた場合でも、新入社員が先輩社員に依存してしまい自立できなくなるケースも懸念事項です。
企業全体でサポート体制を構築し、制度をルール化する必要があります。
ブラザー・シスター制度を導入する際のフロー
ブラザー・シスター制度を実際に導入する場合、どのような流れで構築すればいいでしょうか?ここでは、制度導入のフローを紹介します。
目的とKPIを決める
最初に、ブラザー・シスター制度を導入する目的を確認してください。目的がブレると、制度が形骸化してしまいます。目的が確認できたら、目的の達成を判断できるようKPIを決めましょう。
新入社員の早期離職防止が目的なら、離職率がKPIになります。目的に合わせたKPIを設定してください。KPIの設定が目的とズレていると意味がありませんので注意しましょう。
対象者を決める
次に、指導対象者を決めます。目的から自然に決まることが多いかもしれません。しかし、「早期離職防止」という目的でも、1年目の社員なのか、3年目の社員なのかなど、対象者には幅があります。このステップでは、「入社して3ヶ月目の社員」「入社1年以内の社員」など、対象者を具体的に決めてください。また、実施する部署も決める必要があります。
運用を決める
「期間」「指導内容」などの実施運用を決めます。この運用決めをおろそかにすると、ブラザー・シスター制度は破綻するリスクが高いです。指導役の先輩社員に丸投げするのはやめましょう。細かく指導内容やチェックポイントなどを決めて、リスト化しておくと、指導役の負担は軽減されます。部署や職種に合わせて、身につけるべきスキルを可視化しておきましょう。
ブラザー/シスターを決める
運用が決まったら、指導役であるブラザー/シスターを決めます。ここは慎重に検討してください。一般的に「仕事ができる人」に任せようとする企業が多いですが、このような決め方は失敗の元です。ブラザー/シスターは、業務遂行力より「コミュニケーション力」や「面倒見の良さ」が適性のポイントといえます。業務力が高い人が指導役に向いているとは限りません。「説明力に長けている」「コミュニケーション力がある」「面倒見がいい」などの適性を考慮して、目的に合う指導役を決めましょう。
制度の周知
ブラザー・シスター制度を導入する際は、社内全体への周知が必要です。周囲のサポートがないと、上手く機能しません。導入の目的、方法、運用、サポートが必要な事項などを社内で共有しておきます。特に、ブラザー・シスター制度の指導役経験者は、サポートのポイントを分かっていることが多いので、個別にサポートの依頼をしておくと指導役も安心できるでしょう。
定期的な進捗確認
ブラザー・シスター制度の運用がスタートしたら、進捗を定期的に確認します。新入社員が習得したスキルや運用面での問題点などを確認しながら、必要に応じて軌道修正を加えていきましょう。指導役とは面談を実施して、丁寧にサポートしていくことが大切です。指導役一人に負担を押し付けてはいけません。困ったときにすぐ相談できる雰囲気作りも大切です。
ブラザー・シスター制度で新入社員の定着率を高めよう
ブラザー・シスター制度は、新入社員に対して年齢が近い先輩が指導役としてつく教育方法です。早期離職の防止や先輩社員のスキルアップ、人間関係の構築などのメリットがあります。新入社員にとって、共感してもらいやすい先輩が側にいる環境は安心感があるでしょう。
しかし、先輩社員の指導力や信頼関係の構築に成果が左右されやすい一面があります。サポート体制が構築できていない場合、先輩社員だけに負担がかかることになりかねません。先輩社員にも新入社員にも不満が生じれば、制度が破綻します。
ブラザー・シスター制度を導入する際は、デメリットを理解して、カバーできるよう運用を決めることが大切です。万全のサポート体制を構築し、定期的に見直しながら、新入社員の定着率向上につなげていきましょう。