離職率低下にもつながるコンピテンシーを理解しよう
コンピテンシーは、スタッフ一人ひとりの成長を促して生産性の向上を目指せる手段の1つとして注目されていることから、導入する企業が増えています。
そのため、「コンピテンシーってどのようなもの?」「導入することによるメリットやデメリットが知りたい」と思っている方もいることでしょう。
当記事では、離職率低下にもつながるコンピテンシーのメリットやデメリット、注意点、活用シーンなどをご紹介しています。
コンピテンシーについて知りたい方や、導入を検討している方はぜひチェックしてみてください。
コンピテンシーとは
コンピテンシーとは、高い成果を出している人材に共通して見られる行動特性のことを言います。目に見えやすいスキルや知識、行動などの特性と、目には見えづらい性格、動機、価値観などの特性が含まれているのです。
コンピテンシーを明らかにするためには、高い成果を出す人が「日頃どのようなことを意識し、どのような理由で行動しているのか」など、思考や行動を分析していきます。
なお、スタッフに期待する成果は、担当する業務や役割によって異なるため、コンピテンシーは職種や役割ごとに設定されるケースが多いです。
また、コンピテンシーに関する研究は、マクレランド教授が実施した外交官に関する調査が始まりだとされています。教授は、学歴や知識レベルが同じくらいにも関わらず、外交官らの業績に差がつく理由について調査しました。
その結果、外交官の業績と学歴や知識などに関係は見られず、高い業績を上げている外交官にある共通の行動特性が見られると結論を出したのです。
なぜコンピテンシーが注目されているの?
コンピテンシーによる評価は、時代の変化によって注目されるようになりました。具体的には、年功序列制度や職務資格制度などといった従来の制度が今の時代に合わなくなってきたことが理由に挙げられます。
年功序列制度とは、年齢や勤続年数に合わせて、役職・賃金を上げていく制度のことです。仕事の成果が給与面に反映されないため、モチベーションの低下を招くリスクがあります。
職務資格制度とは、業務に関する経験や知識、協調性など、職務経験を通じて身につけられる能力やスキルを評価する制度を言います。評価基準が曖昧であり、評価者の主観によって左右されるなど、人事評価を公平に行えなくなる可能性もあるのです。
このような課題にプラスして、従来の制度には勤続年数に比例して給与を上げる必要があるため、人件費が上がり続けるという課題もあります。前述した課題を解決するために、年齢や勤続年数より成果を重視することによって、客観的であり公平な人事評価を行えるコンピテンシー評価が注目されるようになったのです。
コンピテンシーのメリットとデメリットは?
コンピテンシーを取り入れるとどのようなメリット・デメリットがあるのか気になるものです。自社に取り入れる場合、無理せずに導入できる方法や活用法などをじっくりと検討した上で導入しましょう。
ここでは、コンピテンシーのメリット・デメリットについて詳しく説明していきます。
メリットについて
まず、コンピテンシーのメリットからチェックしてみましょう。
スタッフがコンピテンシーを意識した行動を取れるようになる
企業にコンピテンシーを導入する場合、高い成果を出している人へのヒアリングをもとにしながら項目を決めていきます。項目が明確になっていることで、企業がスタッフに何を期待しているのかわかり、そしてスタッフ一人ひとりがコンピテンシーを意識した行動をとれるようになるでしょう。
人事評価や採用によい影響をもたらす
コンピテンシーは、人事評価や採用にもよい影響を与えるといったメリットも期待できます。採用や面接時に取り入れることによって、自社に合った人材を採用しやすくなり、スタッフ一人ひとりの成長も期待でき、生産性の向上につながるはずです。
スタッフの離職率低下を目指せる
コンピテンシーを採用すると、離職しにくい人材を確保できる確率も高まります。離職しにくいスタッフを多く集めていくことによって、離職率を下げることにもつながるでしょう。
デメリット
次に、コンピテンシーのデメリットについてチェックしていきます。
コンピテンシー項目の設定に時間がかかりやすい
コンピテンシーを企業に導入する際、高い成果を出しているスタッフへのヒアリングを部門ごとに実施し、職種・役割別のコンピテンシー項目を決めることが大切です。スタッフ1人にだけ確認すればよいわけではないため、項目設定に時間がかかりやすいです。
管理や定期的な更新を行う必要がある
自社にとって適切なコンピテンシーは、市場や経営戦略の変化に合わせて変わるものです。そのためコンピテンシーは1回作成して終わるのではなく、管理や定期的な更新を行わなければなりません。
コンピテンシーモデルとは
実際の業務の中でコンピテンシーを活用するためには、「お手本」を用意する必要があり、それを「コンピテンシーモデル」と言います。
これは、他社や他部署で作られたモデルを使っても意味がありません。成果を出す行動特性は、環境や条件によって異なるからだと言われています。企業や職種などによって、独自のモデルを作るようにしましょう。以下、主となる3種類を紹介いたします。
実在型
社内で成果を上げている人にヒアリングして作成するモデルです。
実在型は、現実に即したモデル設計が行えたり、成果を上げるために必要な行動特性をイメージできたりするなどのメリットが期待できます。
しかし、モデル対象のスタッフの行動特性が他のスタッフにとって、再現困難な場合はコンピテンシーモデルに設定できないケースがあります。
そのため、成果を上げる人材の行動特性を見つけ出す際には、再現性の有無について十分検討しておくとよいでしょう。
理想型
企業が必要とする理想の人材像を基本に作られるモデルのことです。経営ビジョンや戦略から、人材に求める条件を選びモデル化します。
自社に、モデルとなる高い成果を出せるスタッフがいないときに有効な方法です。
注意点は、理想を追い求めるあまり、現実離れしたモデルを作ってしまうことが挙げられます。理想が高すぎると、人事評価や採用を行う際に、合格点に達している人が非常に少なくなってしまう点がデメリットです。
このような点を考慮して、理想型モデルを作成する場合、現実に即していて達成可能なものにすることが大切です。
ハイブリッド型
実在型と理想型を合わせて作られたモデルのことです。
実在型モデルを作った後、理想型モデルの要素を合わせて評価する項目の調整を行います。
3つのモデルの中で1番優れた作成パターンだと言えるでしょう。2つのモデルパターンの優れている面を取り入れて作成でき、高い成果を上げる人材にとって、さらに上を目指すチャンスになるはずです。
理由として、高い成果を上げる人材にとって実在型は、すでに実践している項目が多く、学ぶことが少ないからです。
そのため、高い成果を上げる人材を含め、さまざまなレベルのスタッフに向上を促せるという点で、ハイブリッド型が1番優れたモデルだと考えられます。
コンピテンシーモデルの活用シーン
コンピテンシーは、採用面接や人事評価、人材育成など、さまざまなシーンで活用できるのが特徴です。
しかし、コンピテンシーを人事の分野で活用して高い効果を得るためには、注意点を把握して適切に行動していくことが重要です。
ここでは、コンピテンシーモデルの活用シーンについて詳しく説明していきますので、チェックしてみましょう。
採用面接
コンピテンシーは、採用面接にも活用できます。
活用する際には、「直近1年の間に、1番成果を上げたエピソードについて教えてください」「どのような成果を上げられましたか」などという質問をしましょう。
その上で、なぜそうしようと思ったのか、成果につなげるための工夫など、深掘りした質問をしてください。
上記のように、応募者のコンピテンシーを把握していくと、自社に合った人材なのか判断しやすくなるはずです。
人事評価
一般的には、コンピテンシーは人事評価項目として活用するケースが多いです。人事評価制度には、「コンピテンシー評価」というコンピテンシーに基づく評価のほか、「MBO(目標管理制度)」という個人目標の達成度による評価や、「360度評価」と呼ばれる上司や部下、同僚など複数の立場から従業員を多面的に評価するなどの種類があります。
なかでも、コンピテンシー評価は評価のぶれを減らすために用いられています。
コンピテンシー評価をする場合、部門ごと高い成果を出すスタッフへヒアリングを実施し、評価項目の設定を行うのです。
その項目に基づいて、「目標としていた思考はできるようになったか」「どの程度まで、高い成果を上げる人の行動特性に近づけたのか」などという点を確認しながら、評価を行いましょう。
人材育成
コンピテンシーは、人材育成の場面でも活用できます。
社員研修でコンピテンシーについて学ぶ企業も増えてきています。高い成果を上げる人材に共通する行動特性を確認し合うことによって、それまでわからなかった自分の課題を明確にでき、具体的な目標立案につながりやすいです。
コンピテンシーは役職によっても異なる特性を持つため、コンピテンシーを確認できる場を階層別に分けて用意できると望ましいです。
コンピテンシーモデルを作成する際の注意点
コンピテンシーモデルを作成する際には、いくつかの点に注意しながら進めていく必要があります。注意が必要な点として、以下の3つが挙げられます。
- 高い成果を上げる人材と同じ行動をすれば結果を残せるわけではない
- 取り入れるまでに時間がかかりやすい
- モデルを調整するなど定期的な内容更新が必要
ここでは、モデル作成の際に注意しなければならない点についてまとめましたので、ご覧ください。
高い成果を上げる人材と同じ行動をすれば結果を残せるわけではない
高い成果を上げる人材の行動をただ真似しているだけでは、成果につながりません。高い成果を上げる人材は結果をだすため、その時々で適切な行動を取っています。
成果を出せた時の行動をモデル化したとしても、状況が変化すれば通用しないケースも多いでしょう。
着目すべきなのは、「何をしたか」ではなく「どのような状況の中で、なぜそのような行動を取ったのか」といった点に目を向けることです。
取り入れるまでに時間がかかりやすい
コンピテンシーを取り入れるまでには、時間がかかります。高い成果を上げる人材へのヒアリングや項目設定をはじめ、評価項目が妥当かどうかの確認など、さまざまな工程を経てようやく完成します。
会社の規模や導入する部署数によっても異なりますが、導入決定から運用開始まで2年の期間を要した企業も存在するほどです。
そして、コンピテンシーは他社のモデルをそのまま用いても、あまり意味がありません。会社ごと求める要件が異なるため、独自のものを試行錯誤しながら作成する必要があるのです。
導入するまで時間がかかることを理解し、その上で会社の状況をチェックしながら取り入れることを検討するとよいでしょう。
モデルを調整するなど定期的な内容更新が必要
コンピテンシーモデルは、1度作成したら終了ではありません。
環境の変化などによって、会社が目指す方向性が変わることもあり、人材像も変化していきます。そのため、会社が目指す方法に合わせてモデルを調整していかなければなりません。
調整せずにいると、現場の実態に不釣り合いなものになってしまうため注意が必要です。
事業や経営戦略のブラッシュアップを図る際には、コンピテンシーモデルについても再度検討することが望ましいです。
コンピテンシーを取り入れて離職率低下を目指そう
コンピテンシーとは、高い成果を上げている人材に共通して見られる行動特性のことです。スタッフ一人ひとりの成長を促し、生産性の向上を目指せる手段の1つとして注目されています。
コンピテンシーを取り入れていくには時間がかかりやすかったり、導入した後も定期的に見直しを行う必要があったりする点が注意点です。
コンピテンシーを取り入れることによって、自社に合った人材を採用しやすく、離職率低下も目指せるため、採用面接や人事評価などのシーンで活用してみてはいかがでしょうか。